菅野(2008)は生涯発達・地域支援の4領域を挙げており,「学習・余暇支援領域」「自立生活支援領域」「作業・就労支援領域」に並び,本稿が担う「コミュニケーション支援領域」が位置づけられている。コミュニケーション支援領域は,「行動障害の軽減も含め,他者との円滑な社会生活を送るために必要なコミュニケーションに関する領域で,具体的にはやりとりや要求に始まり,報告・連絡・相談,そして,経験や知識を生かして相手の気持ちをつかむまでの支援する領域である」と定義されており,コミュニケーション支援領域は他の領域とは異なり,生涯を通じて行われる必要のある領域であることも重ねて述べられている。
人が生涯に渡り生活を営む際,他者からの支援は障害児者に関わらず必要となる。それゆえ,他者と円滑に関わる力は各年代を通して育成・維持される必要があるが,環境の変化や加齢に伴い,獲得・維持されてきた能力が発揮されず,適応上の問題として表面化する場合がある。
先行研究では,「学習・余暇」 「自立生活」「作業・就労」「コミュニケーション」の 4 領域において,生活実態や心理・行動特性を明らかにすることが必要であると確認され,同時に青年・成人期の支援内容の体系化が必要であることが確認された。

詳細はこちら→【知的障害児・者のコミュニケーション支援領域の課題】


生涯発達支援に関する機運が高まりをみせるが,知的障害者に対する青年・成人期以降の支援課題については未だ明らかとなっていない現状がある。知的障害者が豊かな社会生活を営む上で,ライフステージの各年代にどのような問題が存在するかを明らかにし,それらの問題に対し,どのような対応策が望まれるかを検討するために,201X年12月から201X+1年1月に郵送による質問紙調査を実施した。調査対象は全国の知的障害特別支援学校619校および成人期サービス支援事業所5534箇所で,返送のあった309校および1265事業所について分析を行った。回収率は特別支援学校48.8%,サービス支援事業所22.9%であった。
コミュニケーション領域に関する相談内容は「行動問題に関する相談」および「対人関係に関する相談」の2つに大別されることが明らかとなった。
年齢を変数として,コミュニケーション支援領域における相談内容の変化を分析した結果,「行動問題に関する相談」は加齢に伴い減少傾向を示し,10歳代と40歳代では統計的に有意な差がみられることから,青年期を中心に支援を充実させる必要性が示された。
「対人関係に関する相談」は加齢に伴う相談数の変化が少なく,対人的な関わりがある限りにおいて一生涯支援が必要な内容であることが明らかとなった。

詳細はこちら→ 【コミュニケーション領域の課題と支援に関する実践的研究】


さらに,詳細について検討したところ,行動上の問題はコミュニケーション領域に関する相談の約6割を占めることが明らかとなった。また,相談が多い順に,他害,反社会的行動,固執的行動,触法行為,反抗,パニック,動作緩慢,自傷,能力低下,破壊的行動,多動,強迫的行動があげられたが,その数は加齢に伴い減少傾向を示した。しかしながら,障害種別により加齢に伴う行動上の問題の変化は異なるとの指摘があり,詳細な検討が必要となるだろう。
一方,対人関係に関する相談は,その要因を見ると,他者とのコミュニケーションが取れない,場の雰囲気が読めないといった本人の能力や特性,それらに起因する対人関係に問題は加齢に伴い減少傾向を示すが,40代になると約半数の問題として表面化することが明らかとなった。次いで,他者へのかかわりに起因するトラブルについても加齢に伴い減少傾向を示すが,40代において増加する傾向が明らかとなった。他の利用者からの過度な干渉といった他者からの関わりを起因としたトラブルであるが,30代が最も高い割合を示すが,各年代ともに一定の割合を示すことが明らかとなった。最後に,人事異動などによる環境の変化などの環境要因に関するトラブルであるが,加齢に伴い増加傾向を示すが,40代以上には表れないことが明らかとなった。
これらの要因と年齢との関連を分析したところ,10歳代では,友だちや家族を起因とする対人関係に関するトラブルの割合が高くなっていることが特徴として挙げられる。適切なコミュニケーション手段がなく,本人が自身の障害特性を適切に理解でずに他者へ一方的に関わる,他害をする等の相談が見られた。 次に20歳代では,友だちや同僚・利用者,職員など所属施設内における他者との関わりに起因するトラブルが高い割合を占めることが特徴として挙げられる。適切なコミュニケーション手段の不足だけでなく,周囲による本人理解が不十分であることから生じるトラブルの相談が見られた。また,転職や住居変更等,環境の変化に本人が影響を受けた結果の対人トラブルの相談も見られた。
続いて,30歳代であるが,同僚・利用者,職員との関わりに関する対人関係に関するトラブルが20歳代と同様に表れており,かつ精神疾患による対人トラブルが見られた。また,動作緩慢や能力低下による関わり方の難しさなど行動上の問題も見られるようになってきていることが特徴である。
最後に40歳代以上であるが,行動上の問題が減少する傾向にあるが,適切なコミュニケーション手段の不足,精神疾患,動作緩慢や能力低下による対人トラブルの相談が見られることが特徴である。

詳細はこちら→【コミュニケーション支援領域の相談内容】


以上の調査結果を基に,年齢段階に応じた支援の内容について検討した。支援内容は「本人への支援」と「環境調整」の2軸とし,さらに,「本人への支援」は,「困難さへの対処的支援」と「本人の知識・スキルの獲得および維持」の2観点に分類した。「本人への支援(困難さへの対処的支援)」であるが,10代から20代後半にかけては行動上の問題の割合が高いことから対処的な支援が求められる。また,精神疾患等の疾病に起因するトラブルを未然に防ぐための疾病の治療も必要となるであろう。また,30代からは能力低下等の加齢に伴う課題による対人トラブルへの対応も必要である。
「本人への支援(本人の知識・スキル獲得,知識・スキル等の維持)」であるが,他者への関わり方や自身の特性を学び,それに基づいた適切な関わり方を継続的に支援する必要性が示される。知的障害児者本人からの相談の中には,自身の特性を理解し,課題解決の方策を探りたいという旨の相談の割合が一定数あり3),本人支援の重要性がうかがえる。さらに,知的障害者の特徴である般化や応力の困難さが起因していることが考えられ,特性に応じて状況ごとに丁寧に支援を行う必要があるだろう。また,30代後半からは加齢に合わせたコミュニケーション手段の代替も獲得するよう支援する必要がある。
「環境の調整,支援者への支援,制度の利用」であるが,どの支援も継続的に行う必要がある。周囲が障害や本人の特性を理解する支援も必要であり,それによって環境の変化に起因する対人トラブルを最小限にしていくことが必要である。また,他者と関わる機会そのものの設定を継続的に行う必要があることは言うまでもないだろう。
コミュニケ―ション支援領域は,他の領域とも課題が重複することに加え,本人の要因や環境要因が複雑に絡み合い,課題を解決する上では多方面からのアプローチが必要となる。また,本人や周囲の困難さの主訴が分かりづらいという課題も抱えている。したがって,本研究で得られた支援内容の詳細を活用し,課題解決に向けた事例を積み上げ,対応の方法を検討していく継続的な取り組みが今後も必要となるであろう。

詳細はこちら→【知的障害児・者のコミュニケーション支援領域の支援内容】

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