【調査研究】
1 目的
 近年のわが国における長命化・高齢化は知的障害者においても同様に生じている。知的障害者への支援は、乳幼児期・学齢期・青年成人期・老 年期を含めて生涯発達の視点を持って取り組むことが求められている。生涯発達支援に関する機運が高まりをみせるが、知的障害者に対する青年・成人期以降の支援課題については未だ明らかとなっていない現状がある。知的障害者が豊かな社会生活を営む上で、ライフステージの各年代にどのような問題が存在するかを明らかにし、それらの問題に対し、どのような対応策が望まれるかを検討する。
2 方法
(1)調査対象
全国の知的障害特別支援学校619校および成人期サービス支援事業所5534箇所に対して調査用紙を郵送し、返送のあった309校および1265事業所について調査分析を行った。
(2)実施方法
調査時期は平成19年12月から平成20年1月であった。調査方法は郵送による質問紙の送付、質問紙の回収により行った。
(3)回収状況
回収率は特別支援学校48.8%、サービス支援事業所22.9%であった。
(4)調査内容および分析方法
相談内容から菅野の示す生涯発達・地域生活支援の4領域に「健康状態」を加えた5領域にケースを分類し、相談者、障害種別、相談支援を受けた年齢、相談内容の詳細について分析を行った。本稿ではコミュニケーション領域を取り扱うこととする。
なお、本調査は厚生労働省「障害者自立支援調査研究プロジェクト」平成19年度障害者保険福祉推進事業により実施された。
3 結果と考察
コミュニケーション領域おける課題に対して具体的な支援内容を提案する際、相談内容の詳細を明らかにすることが重要となる。そこで、コミュニケーション支援領域に関して具体的な相談内容から13の項目に整理を行った。Table.2に示す。

Table.2 コミュニケーション支援領域の相談内容と具体的な相談

 Table.2より、コミュニケーション支援領域の相談内容と具体的な相談が明らかとなった。項目数としては、「対人関係に関する相談」が多いことが明らかである。また、これらの相談内容の割合をFig.3に示す。

Fig.3 コミュニケーション支援領域の相談内容の割合

Fig.3より、コミュニケーション支援領域の相談内容の割合が明らかとなった。内容は「対人関係に関する相談」と「行動上も問題」に大別されることは前述の通りであったが、行動上の問題はコミュニケーション領域に関する相談の約6割を占めることが明らかとなった。
さらに対人関係に関する相談に関して具体的な内容の年齢を変数とした変化を調べたところ、Fig.4に示す結果を得ることができた。

Fig.4 各ライフステージにおける対人関係に関する相談の割合

 Fig.4より、対人関係に関する相談の様相は、本人の能力や特性、それらに起因する対人関係に問題は加齢に伴い減少傾向を示すが、40代になると約半数の問題として表面化することが明らかとなった。次いで、他者へのかかわりに起因するトラブルについても加齢に伴い減少傾向を示すが、40代において増加する傾向が明らかとなった。他者からの関わりを起因としたトラブルであるが、30代が最も高い割合を示すが、各年代ともに一定の割合を示すことが明らかとなった。最後に、環境要因に関するトラブルであるが、加齢に伴い増加傾向を示すが、40代以上には表れないことが明らかとなった。
同様に、行動上の問題に関する具体的な相談の割合と年齢を変数とした変化を調べたところ、Fig.5に示す結果を得ることができた。

Fig.5より行動上の問題における相談の割合は、相談が多い順に、他害、反社会的行動、固執的行動、触法行為、反抗、パニック、動作緩慢、自傷、能力低下、破壊的行動、多動、強迫的行動があげられたが、その数は加齢に伴い減少傾向を示した。しかしながら、障害種別により加齢に伴う行動上の問題の変化は異なる指摘があり、詳細な検討が必要となるだろう。
 以上、コミュニケーション領域に関する相談内容を分析したところ「対人関係に関する相談」と「行動上の問題に関する相談」に大別されることが分かり、年齢を変数として変化から問題の特徴が明らかとなってきた。以上の分析より明らかとなってきた相談内容および課題の傾向をFig.6に示すようにまとめた。

Fig.5 各ライフステージにおける行動上の問題に関する相談の割合

Fig.6 コミュニケーション領域に関する相談の特徴図

Fig.6より、各年齢層におけるコミュニケーション支援領域の相談内容や課題の傾向を整理することができた。各年齢層における特徴を以下に述べる。
まず10歳代であるが、友だちや家族を起因とする対人関係に関するトラブルの割合が高くなっていることが特徴として挙げられる。適切なコミュニケーション手段がなく、本人が自身の障害特性を適切に理解でずに他者へ一方的に関わる、他害をする等の相談が見られた。
次に20歳代であるが、友だちや同僚・利用者、職員など所属施設内における他者との関わりに起因するトラブルが高い割合を占めることが特徴として挙げられる。適切なコミュニケーション手段の不足だけでなく、周囲による本人理解が不十分であることから生じるトラブルの相談が見られた。また、転職や住居変更等、環境の変化に本人が影響を受けた結果の対人トラブルの相談も見られた。
続いて、30歳代であるが、同僚・利用者、職員との関わりに関する対人関係に関するトラブルが20歳代と同様に表れており、かつ精神疾患による対人トラブルが見られた。また、動作緩慢や能力低下による関わり方の難しさなど行動上の問題も見られるようになってきていることが特徴である。
最後に40歳代以上であるが、行動上の問題が減少する傾向にあるが、適切なコミュニケーション手段の不足、精神疾患、動作緩慢や能力低下による対人トラブルの相談が見られることが特徴である。

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